異業種交流研修会 会長挨拶
東京都技能士会連合会会長 大関東支夫
(異業種交流会の歴史)
私の記憶に間違いなければ、この異業種交流研修会は2009年に千葉県小湊に参加したのが最初。16回目になる。
この時期はいつも開催を危ぶまれるような出来事が起きている。忘れもしないのは2011年3月にKKR熱海で開催された交流会。東日本大震災がおきた翌々日。中止も考えたが開催を決断した。参加者の方がコンビニに駆け込み乾電池を探していたことを思い出す。
その後も新型コロナの発生で開催が危ぶまれることもあったが皆さんの熱意で中断することなく開催してきた。今年もこうして皆様の元気なお顔をみて開催できることを大変うれしい。
(混乱の年明け)
今年に入り、世の中が大変あわただしくなっている。最大の要因はトランプ米大統領の就任。まだ2か月足らずだが、トランプさん一人の言動に世界中が振り回されている。
私は毎年、元日に、「1年の予測は元旦にあり」という予測をすることを習慣としている。今年も東技連のHPに掲載しているが、昨年の予測の中で、米国のトランプ大統領誕生の可能性があることと、プーチン、習近平3人が揃った時のリスクを記録した。昨年1月当時の世論は、「トランプの復帰はもうないよ」と受け止められていた。
年度途中から、「もしトラ」→「ほぼトラ」と言われるようになる。トランプさんもその気になり、「自分が大統領になったらウクライナへの支援はやめる。NATO諸国が資金を出さないならロシアにその国を攻めさせる」とまるでプーチン支持のようなことを言い出していた。
それが今年1月にトランプ大統領が就任したことで、心配していたことが現実のものになってきた。
トランプさんは排他主義、自国第一主義で予測不能の人と言われる。私から見ると、自国第一ではなく「自分第一主義」の人と考えれば理解しやすい。「バイデン大統領のやったことは自分には関係ないこと、ウクライナに支援した金は埋蔵資源で返せ、イスラエルに攻撃されたガザ地区の住民は元に戻さない。跡地にトランプタワーを立てて観光地にする」と公言する。
ウクライナやヨーロッパ諸国を抜きに米国とロシアで停戦を進めようとする。「ウクライナのゼレンスキー大統領は選挙をしないで居座っている独裁者だ。停戦協議に参加する必要はない」、と主張。停戦案はあたかもロシアが正義であり勝利者であるかのような内容。これではウクライナ国民は納得できない。いま「しめしめ」と喜んでいるのはロシアと中国だ。
振り返れば、この戦争は元々、ロシアがウクライナに武力侵攻したことに始まる。ウクライナを支援し続ければ戦争は終わらない。早く終わらせたい。停戦することを優先するために現状を認める案になる。力ずくで占領した地域をロシア領と認めれば、今後、中国が台湾を武力で占領した場合は中国領に認めることになる。軍事大国の理屈が今後の世界の常識となりかねない。日本にとってもNATOにとっても大変な危機になる。
(これから世界はどうなるか)
トランプさんにしてみれば、これからもロシアはアメリカの敵にならない。心配ならヨーロッパが対応すればよい。ウクライナの戦争を早く終わらせて軍事勢力を中国に一本化したいという思いが強い。
米国にとって、「最大の敵は中国だ」と思っている。だが、トランプさんが在任中に米国と中国は戦争に突き進むのかということになれば疑問がある。
トランプさんの本音は戦争を嫌う。戦争よりも関税が大好き人間。米国に入る輸入品に高い関税をかける。トランプ大統領は、米国の産業を守るためだと主張しているが、関税をかけられた相手国も報復関税をかけるというチキンレースがはじまる。言わせてもらえるなら、米国は関税をかける前に諸外国が買いたくなるような米国製品を作る努力をして欲しい。
米国に入る輸入品の多くが衣料や食料、電気製品等生活必需品である。関税が上乗せされ高くなった商品でも買わざるを得ない。結果的に国民が関税を負担することになる。物価高は止まらず国民の不満が溜まる。米国経済も不況に入る。失業者もでる。解決の出口を探すことになる。
トランプ大統領も参謀のイーロンマスク氏も実業家。戦争するよりも経済交流した方が得であると考える。「中国に自動運転の電気自動車やツイッターXを広めたい」というのが本音。中国と妥協点をみつけ経済交流・拡大の道を選ぶ。
(私が前々から恐れていたことが始まる)
米国、ロシア、中国が戦争するのは困るが、もっと困るのは、この軍事大国同士が仲良くなり大国の論理で世界をリードすること。
今後ヨーロッパではアメリカ離れが始まる。アメリカに頼れないと分かり、ウクライナ問題でも独立の動きがでてくる。今後はロシア対ヨーロッパ有志連合の争いになっていく。
世界の先進国で心配な動きも出ている。
すべての与党が選挙で惨敗している。物価高等で国民に溜まった不満が政権与党に向けられている。先進7か国で選挙のなかったイタリアを除き、米国、フランス、ドイツ、英国、日本等すべて与党が惨敗。代わりに登場するのが「耳障りのよい公約」を掲げる政党。とりわけ排他主義、自国第一を唱える極右政党が倍増する勢い。今後の世界が変わってくる。
今を、歴史的にみれば、スペイン風邪と第一世界大戦が終わったあとに、ヒトラー、ムソリーニ、スターリンが登場し第二次世界大戦に向かう前夜に非常に似ている。私には第三次世界大戦の心配が消えていない。
今後、関税のチキンレースを続ければ、世界は不況に向かうのは必然。日本のものづくり、製造業にとって関税は大きな障害になってくる。
幸い、今年3月の日本の上場企業の7割以上が前年増の利益、3分の1以上が史上最高の利益をあげることが確実視されている。その多くが自動車、電気、機械、医薬品、化学といった製造業である。円安も続いているので今後も増益は続くと思うが油断はできない。
(国の経済危機を救うもの)
これから世界経済は混乱していく。製造業の力により国の格差も広まる。いつの時代でも混乱から国の危機を救うのはものづくりの力である。
いま世界をリードしている産業はGAFAMに代表されるAI関連。正にAI万能の世界。ここ数十年の間に台頭した企業ばかりだ。でわこうした産業がこれから国を救うことになるのか。これから100年後にどうなっているのか考えなければならない。
私は、「汗をかかず人間としてのぬくもりを感じない仕事」に成長・発展はあるのか?という疑問と、「額に汗して働く職業こそがその国を救う」と思っている。それが製造業だ。
日本には100年企業が2万8千以上。ほとんどが製造業。なかには千年企業も7社ある。
そのうちの一つに大阪天王寺に本社を置く「金剛組」という会社。西暦578年に聖徳太子の命で創業(1447年前)。1400年以上続く世界最古の会社だ。お寺や神社を建築修復する会社。現在、資本金3億円。多田会長の下、社員110名余。そのうち100名が宮大工という技能士の会社である。倒産の危機もあったが、「こんな良い会社を潰してはだめだ」ということで高松建設が支援し存続した。
この会社の強みは
- 顧客からの信頼を第一とする。「いい材料で、いいものを作り、いい仕事をする。
- 国宝級の宮大工を育てていく。「カンナかけもトイレットペーパーの厚さの3分の1の薄さまで削れる技、を継承していく」ことを基本。
多田会長曰く、「当社は資本金3億円だが、宮大工一人一人が資本金。一人1億円以上の価値があり300億円以上の会社である」と。「しっかりと仕事のできる柱になる人材」を育て・継承する。顧客に信頼される仕事を続ける。ものづくりの基本。地道ですが、これが1000年企業、技能士の姿。
(ぬくもりのある研修会)
この研修会は世の中の素朴な疑問を解消する会でもある。こうして熱海まできて研修会を開催する。技能士の仲間たちと普段できない会話や議論をする。
研修会の後には美味しいお酒、料理が待っている。温泉に入って体をあたため、ゆっくり休む。そして、明日は蒲鉾つくりの体験もする。
こうした人間性を取り戻す時間こそ幸せを感じる時間でもある。
皆さん、今日と明日。貴重な時間を楽しく有意義な研修会にしましょう。
ご清聴有難うございます。